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(━━━━気付かないのか?)
耳の奥、頭の中から届いた問い掛けに驚いて真っ暗な周囲を見渡してはみたが、やはり誰もいない。
そのうちテレビの中の『彼』は狭い階段を駆け上がり、ドアを開けて出てきた数人をモーゼルの掃射で凪ぎ払って壁際にしゃがんだのだった。
(━━━━お前はもう用済みだ。黙って見てな。)
また声が響く。
「誰だ!どこにいる!」
(お前は俺だって言ったろ?お前が今いるのは俺の中だ。)
俺はお前━━━━満は気を失う前に見た奴、自分と瓜二つの男を思いだしていた。
「な、何言ってんだよ!?俺は俺だ!竹田 満だ!」
(言っただろ。俺はお前で、お前は俺なんだよ…悪いが、今はお前に構ってる暇はない。)
反論しようとした満より先にテレビから舌打ちが聞こえ、『彼』がモーゼルの排莢口から専用のクリップで留められた弾を押し込んで叫んだ。
(目障りな雑魚共がァ!)
━━━━『彼』の声は満と同じ声に聞こえた。
「嘘だろ…俺は俺だ!こんな━━━━銃で人を殺したりなんかしない!」
満の叫びが相次ぐ銃声に引き裂かれ、画面の満は歓喜とも聞こえる声を上げながらドアを蹴破って転がり込んだ。
(撃て撃てェ!絶対仕留めろォ!)
熱気を帯びた鉛の豪雨が怒号と共に注がれ、だがテレビの満はそれに見舞われる直前に壁の陰へと戻っていた。
そして室内からの銃撃が治まる前に、戸口からモーゼルの首を伸ばして弾倉の中に残っていた弾を全て吐き出させたのだった。
弾が壁に埋もれたり跳ねたりする音や、ガラスが砕ける音━━━━銃声と一緒に鳴っていたそれらが止むと、室内からは呻き声しか聞こえなくなっていた。
ジャッ━━カチャンッ━━━━モーゼルに新たな弾薬が装填され、それらを留めていたクリップが静かに落ちる。
(ザコばっか…おい、お前等のボスはどこだ?頭が残ってるうちに答えな。)
モーゼルの口が、かろうじで命を持ち続けている男の額につけられた。
「もう止めろよ!このサイコ野郎!」
テレビにくってかかったが、モーゼルは男から離れない。
(━━━━ここにはいない…土産だけだ…。)
土産━━━━銃をつきつけられた男はニヤリと笑み、右手を高々と上げてライターの様なものを見せつけてきた。
刹那、テレビの画面が視点をぐるりと変えて急にブレたのだった。
『彼』は走り出したんだ━━━━満は理解し、そのすぐ後、全身に痛みが突き刺さると気を失ってしまった…。
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