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そんな心折れる体験を経た高校一年の三月の春休み、これから始まる新学期を思い浮かべながら、葉月の憂鬱は深まる一方。ベッドの上で布団に包まり、深い溜息を何度も繰り返す。
「葉月、電話よ」
自室に篭り、そんな毎日を送っていたある日のこと。母親に呼ばれ受け取った一本の電話。軽く受話器を耳に押し当て出ようとした瞬間。
「落ち込んでいるらしいな、葉月! 実に情けない、情けなさ過ぎるぞ!! 貴様それでも男子か!? いや貴様はウジ虫、それ以下の最も劣った糞野郎だ!」
耳を突き抜ける声高な美声。だがその内容は美声からは想像出来ない程、罵倒に溢れかえっている。受話器越しに罵倒され、耳と心がえぐられる様に痛い。
開口一番で新兵訓練な口調で話す人物、葉月の記憶にはただ一人しか居ない。
「……知里お姉ちゃん」
幼い頃からまるで姉弟の様に育ってきた年上の従兄弟。今は他県で教師をやっている。葉月が最も心を許している人物。
「でも、突然どうして?」
「叔父さんと叔母さんが心配してたぞ、葉月が学校の事で落ち込んでいるとな」
別に両親に悩みを打ち明けた訳ではない。だが言わなくとも気付いていたのだろう。だから一番懐いている知里に相談を持ち掛けたと言う事か。
先程迄の強い口調とは打って変わって、穏やかな優しい声。
「葉月、私の所へ来い。二年間面倒を見てやる」
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