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一之瀬葉月は自分の名前が嫌いであった。名の響き自体は嫌いではない、いや寧ろ好きであろう。だがどうしても受け入れられない理由があった。よって葉月は己の名前が嫌いなのであった。
一之瀬葉月は己の身長が気に入らない。160センチにも満たない、156センチという中途半端さ。
一之瀬葉月は鏡に映る自身の顔を好まない。決して醜い訳ではなく、整った愛らしい顔立ち。二重瞼に大きな瞳、きめ細やかな色白な肌。
アイドルへとスカウトされた事も、一度や二度ではない。誰もが羨む完璧な美少女。
しかし一之瀬葉月にとっては、コンプレックス以外の何物でもない。
――何故ならば、一之瀬葉月は健全な男子な訳だから。
そんな容姿のせいで、周りに群がって来るのは鼻息の荒い男子達。群がるだけならまだしも、毎日愛の告白の嵐……勿論男子から。
それだけでもトラウマになりそうだが、極めつけは片想いの相手に勇気を出して告白したも振られた時のこと。嫌われて振られたならば、まだ話が分かる。しかし返って来た答えは『私……レズはちょっと。それに自分よりも可愛い彼氏も無理だから』だ。
「何だよ……それ」
思い出しただけで涙が出て来る。深い溜息と共に、ベッドへとその身を投げ出すのであった。
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