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『あれは、お前の思い出ではない。忘れないで欲しいと願う、亡くなった者の願いだ』 『亡くなった者』とじいさんは言った。 違う。彼女は死者なんかじゃない。彼女が死んでしまうはずがないのだから。 何故なら彼女は…彼女、は? そこで思考が凍りついた。 彼女の正体を知っているはずなのに、記憶に鍵を掛けられているかのように立ち塞がるもの。 解らない。 解らない、といえば、このスケッチのこともそう。 裏の文字はじいさんの字に間違いない。あんなに見慣れた字を、間違えるはずがない。 段々、頭も痛くなる。今日はこのくらいで止めておけ、ということでしょう。 パソコンを切り、軽く背伸びをすると、ボキッボキッと節が鳴る。 何だか、じじくさい。 そんな事を思いながら、お茶を沸かそうと立ち上がった時、店の扉が開いた。 「いらっしゃい…ませ?」 お客様相手に躊躇するのは、店主としてはあるまじき行為かもしれません。 しかし、ぴっちりとスーツを着て、かっちりとオールバックに髪を固めた男性が立っていたならば、何かのセールスマンかと疑ってしまうのも仕方がないと思います。 とりあえず。 「申し訳ございませんが、セールスの類は」「初めまして! 『時想屋』の方ですか?」 顔を紅潮させ、にぱりと笑うと、若い年齢が見え隠れする。 下手すれば、僕より若い…? 「私、こういう者でして」 手渡された名刺には、超一流の大学の名前と彼の名前。 『教授 蔵河充彦(くらかわ みつひこ)』
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