第貳章―感情の名―

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ガラ… 静まり返った部屋に扉の開く音がそっと響く。 しばらくすると、コツ…コツ…と忍び寄る足音も鳴り出す。 その足音は、女の人が寝る寝具の側まで来るとピタリとやんだ。 スッ…と女の人に優しく手が伸びる。 サラ…と指に髪を通しながらその手は女の人をいとおしそうに撫でていた。 「…やっと、見つけた……………紅の君」 朝、目を冷ますと傍らに花弁が散っていた。 目をさ迷わすと、窓がわずかに開いていて、外から風と共に花弁が舞い込んでいた。 (…あ、昨日閉め忘れて寝ちゃってた…) 私はふぅとため息を吐くと、窓をしっかりと閉め、服を着替えて仕事に向かった。 朝の仕事は忙しく、人の手が回らない場所もあったりで、朝から水篠さんは怒鳴りあげていた。 私は水篠さんに目をつけられてる所為か、手の回らない場所に次々と送り込まれ仕事をさせられる。 おかげで私は早々と仕事が覚えられて助かるのだけれど…。 水篠さんも私の手際や仕事の速さに文句を言わない辺り、まずまずは及第点かなと一汗かく。 でも、油断せずにテキパキと仕事をこなしていった。 「へぇ、それで日中とも忙しかったんだね」 私は、夕方…仕事を全部片付けて十四楼様のお世話に来ていた。 十四楼様が仰ったように、私は今の今までずっと水篠さんの指示通り仕事をしていたので、予定より少し遅れて部屋を訪れていた。 「すみません、遅くなりまして…あの、何かご用は…?」 「ん?ないよ」 書類から目線をあげると十四楼様はニッコリと笑って私を見た。 「君は、なにもせず…黙って私の側にいてくれればいいから」 そして、十四楼様はまた書類に目線を戻すと、仕事を再開する。 私はそんな…と落胆しながらも、側にいられるだけましか…と少しだけ笑って十四楼様の傍らに腰掛けた。 十四楼様の側で彼を見つめられるだけでも、私は幸せに思ってしまった。 「…宮……羅刹さん?私はもう仕事が終わるから、よかったら庭にでも散歩に行かない?」 そう微笑む彼を見て私は少し言い淀む。 「…大丈夫、なんなら護衛っていうのでもいいよ?」 そういった彼にまぁそれなら…と承諾すると、彼はさっと仕事を片付けて私に手を差し出した。 「…それじゃあ、行こうか?」 そして私たちは部屋を後にした。
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