第貳章―感情の名―

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ザァ―――――… 「雨、本降りになってきたね…」 「そう…ですね」 雨足の強まる中、二人は空を見上げてそういった。 視線を下ろすと、雨戸がごうごうと激しく波立っている。 「…羅刹さん、寒くはない?」 そういって十四楼様が優しく肩を抱く。 「あ、あの…!」 「しっ…、今は静かに…疑問は胸の奥に仕舞って…?」 口元に指を当ててからそっと自分の胸を指先で叩く。 私は口を紡ぐと、静かに項垂れた。 「ごめんね…?君に話すことができなくて… でも、いつかは話すから…何故、そうしたのか、私のこと………そして、君のことを…全て」 そして、彼は遠くを見つめた。 「…一つだけ、質問は駄目でしょうか?」 「…いいよ、答えてあげよう…ただし、本当に一つだけなら…」 私はそういわれて考える。 本当にそれでいいのか。 他に気になることはなかったか。 自問自答した結果、やはり私の気持ちは変わらなかった。 「…何故、急に………私を知っていたの?」 「…そうだね、気づいたのは昨夜だけれど…確かに君を知っていたよ?…ずっと昔からね…」 だから、君にこう接したんだ。 君に…牽かれてしまっていたから。 いつからからかはわからないと言いながら、その思いを彼は口にした。 昨夜思い出すまでは、今日みたいな行動をとるとは夢にも思わなかったと。 私はそんな彼の言葉に僅かに頬を赤らめる。 でも…まだ、一つだけ疑問は残る。 何故、私も彼を好きでいるのか。 それがすごく不思議だった。 だけど、何故だかわかる気がした。 彼の顔を見て、彼の声を聞いて、確かに遠い昔に出会った気がすると…。 彼が優しく私に触れる。 あぁ、知っている。 私はこの手を…この温もりを…。 あれは… 「…時間だね」 十四楼様が静かに呟いた。 その声で私はハッと意識を戻す。 十四楼様は遠く庭先に視線を向けていた。 釣られて見ると、水篠さんが十四楼様を探す姿が見えた。 「…残念、まだ二人だけの時を過ごしたかったけど…仕方ないね」 そう苦笑して、十四楼様は「行こうか?」と手を差し伸べる。 私はそっとその手を取ると、いつの間にか弱まった雨足の中、屋敷の中に向けて走り出す。 楽しくて、幸せな時間。 私は緩む表情を隠せないまま、彼の後ろを連れ立って走る。 これから幸せな未来が続くような気がして、私は胸を高鳴らせた。 あぁ、そうか。 これが…“恋”というものなんだ…―
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