第参章―罪人の華―

5/9
前へ
/68ページ
次へ
「羅刹」 部屋の戸に手をかけた瞬間、十四楼様が私を呼び止める。 振り向くと、十四楼様が冷めた微笑で私を見ていた。 「遅くならない内に帰るようにね」 そう告げた十四楼様に少しほっとした気持ちで頭を下げた私は次に十四楼様の顔を見て固まる。 “帰ってきたら、部屋に来なさい” 口元だけを静かに動かした十四楼様の聞こえない言葉を読み取った私は、背中に冷や汗を伝わせた。 その意が何を指すのか、私は体を強張らせながら、了承の意を十四楼様に返す。 そして、さっと踵を返して部屋を後にした。 バタンと閉じた音が重い。 前を向くと、魅夜お嬢様がスネた顔で私を見た。 「遅いわよ!早く!寝不足はお肌によくないんだから!」 「すみません、すぐお送りします!」 私は慌てて魅夜お嬢様を連れると、早々(ハヤバヤ)に屋敷を後にする。 凩家のお宅までは魅夜お嬢様を機嫌を直しながら、送り届けた。 最後には気分もよくなった魅夜お嬢様が、笑顔で明日もお願いね!と、私に手を振って別れを告げる。 その光景がとても微笑ましくて、重い足取りも本の少し軽くなった気がした。 ―――…ギィー… 軽くなった気がした気分も、屋敷に入ればまた重くなる。 私はしんっ…と静まり返った屋敷を静かに歩く。 凩家が思っていたより遠く、往復だけで4時間もかかってしまった。 さすがに、十四楼様も疲れて寝てるかもしれない。 そう思いながら彼の部屋の扉を軽く叩いた。 「どうぞ」 しんっ…と静まった夜の屋敷に彼の声が染み渡る。 私は意を決して扉に手をかけた。 「失礼します」 部屋に入ると、彼は冷やかな笑みを浮かべて私を見る。 「…遅いね、随分待たされたよ」 彼の口調から凄く怒っているのが感じ取られる。 私は申し訳なさに頭を下げた。 「申し訳ございません!主を待たせてしまうなど、従者として恥ずべき仕打ちです!」 けれど、十四楼様はまだ空気を変えない。 しばらくすると、十四楼様がゆっくりと立ち上がった。 「…私が怒っているのはそれに対してだけではありません、わからないのなら…わからせてあげましょうか?」 ゾクッと背筋が凍る。 近づく足音に畏怖し、私は思わず後ろに下がってしまった。 ガタッと背中に扉があたる。 それを見て十四楼様はまた冷やかに笑んだ。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加