―はじまり…―

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小鳥のさえずりが聞こえる。 朝日のいい匂いがした。 私は、盥(タライ)を片手に走っていた。 「はぁ、はぁ…。えーっと、次は…蓮舫(レンホウ)さんの家ね」 息を切らしながらそういうと、私は道を駆けた。 丁度曲がり角を曲がろうとした瞬間、私は誰かとぶつかってしまった。 バランスを崩した私はそのまま地面に倒れそうになり、ギュッと目を瞑る。 しかし、何時まで待ってもこない衝撃に、私は不思議に思い、そっと目を開くと、そこには、一人の男の人が、私を支えるようにして立っていた。 私が地面に倒れないように、しっかりとした手で抱きとめるように…。 「前を見て歩かないと、危ないですよ」 男の人は、ふっ…と笑ってそういった。 あぁ、なんて綺麗な人なんだろう。 私はつい、その男の人に見惚れてしまった。 しかし、男の人が首をかしげた瞬間ハッと気づき、慌てて離れるとお礼を告げる。 「あ…ありがとうございますっ…!」 すると、その人はニッコリと笑うと、それはよかったとだけ言って帰っていった。 けれど、途中でふ…っと彼は振り返り、私に軽く会釈をして微笑んでくれた。 おかしい、体が熱くなって顔が火照りだす。 もうそこにその人はいないのに、私はその場から動けなくなっていた。 まるで、時間が止まったかのように。 ただ、動悸だけを早くして…。 しばらくして、家に戻った私は、早めに布団の中に入いって、眠りにつく。 だけど、今日会った人の顔が忘れられず、結局私は寝不足になったのだった。
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