第参章―罪人の華―

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次の日の夕方― 宣言通りに遊びに来られた魅夜お嬢様と午後のお茶を楽しんでいる時に、その知らせは届いた。 「…っ!?」 「どうしたんですの?羅刹」 「あ、いえ…なんでもございません、さぁお茶を続けましょう」 「…?まぁ、いいわ、羅刹!次は餡のいっぱいついた和菓子がいいわ!」 「はい、畏まりました」 私は、何事もないように笑い、お嬢様の相手をする。 でも、内心は焦っていた。 届いた知らせとは、夫婦の契りを交わす婚礼の義の日取りが決まったというものだった。 私は、まだ自由に…やっと芽生えたこの感情を胸に留めていたいのに…。 余り人に入れ込みすぎるなという一族の圧力かもしれない。 確かに、最近私は自分が“何者”なのか忘れている所はあった。 だから、こうなることは予期していた…でも、何故…よりによって… 「…この日なの…?」 「何が?」 「あ、いえ…すみません、なんでもございません」 「えー、やだ気になるー!ねっ!誰にも言わないから、教えてよー!」 うっかり口にしてしまい、お嬢様に問い詰められる。 余りに粘り強く尋ねるので、私の方が根負けしてしまった。 「はぁ…聞いてもつまらないですよ?」 「やったぁっ!大丈夫!羅刹の話ならなんでも聞きたいから!」 ニコニコと無邪気な笑みを向けられ、私は苦笑しながら口を開いた。 「…実は、契約期間終了と共に嫁入りすることが正式に決まったという知らせが入ったのです」 そう私が告げるとお嬢様は首をかしげる。 「婚礼なんて、幸せそうなのに…なんだか、嬉しくなさそうね?」 「すみません、まだ少し実感がわかないだけです…でも、しばらくすれば大丈夫ですから」 「…大丈夫って…婚礼って耐えるためにするものかしら?」 図星をさされ、二の句が継げない。 真っ直ぐに見据えるお嬢様に私は押し黙るしかなかった。 「…あなたは、優しいのね…」 不意にお嬢様がそう口にする。 「…え」 「だって、傷つけたくないから…守りたいから婚礼するのでしょう?…家を、相手を…」 どこか寂しげにお嬢様は繋げた。 その言葉に私は目を見開く。 「…そんな、私はただ…」 「…自分にとってそれが最善と思ったの?」 私はグッ…と口を紡ぐ。
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