2人が本棚に入れています
本棚に追加
結局、一睡もしなかった。
光が指し始めた窓を見つめ、私は溜め息をつく。
今日もお嬢様がお越しになるのに、腫れた目や隈を作った顔で会うわけにはいかない。
私はいつも以上に顔を整えると、早めに仕事につく。
まだ誰も来ていないのか、屋敷はしん…と静まり返っていた。
それもそうだ。
まだ明け方で、仕事にはまだ2時間以上余裕はあるのだから、静まり返っていたとしても不思議ではない。
でも、今日はこの静かさがあまり落ち着けない。
私はいつも以上に仕事に集中して働き始めた。
何も考えないですむように。
気づけば屋敷は慌ただしくなり始め、忙しい一日が始まる。
水篠さんは朝早くから働いていた私を見つけると、お客様の相手があるのだから、迎えに行く前から倒れられたらいかんと、休息を取らされた。
健康管理や働き方も仕事にとって大事になる所だ、少しでも欠けたら仕事にならんからなといってくれた水篠さんを見て、前よりは優しくなったことに嬉しさを覚える。
気にかけてくれるようになったことが少しは認めてもらえたのかなって思えて、でも、敢えて顔には出さずにいつものように動く。
休息はお嬢様を迎えにいくまでとって構わないという水篠さんに甘えてギリギリまで取ることにした。
でも、調子に乗らないように休息をとりながらも予定や仕事の書類を見直していく。
途中、見掛けた水篠さんに「あんだぁは、休息という言葉ん意味知らんのがいね?」と溜め息は吐かれたが、苦笑いでかわしておいた。
時間になると私は支度をしてお嬢様を迎えに行く。
結局あの後、水篠さんに時間ぎりぎりまで、休息とはなんたるかを説き聞かされることにはなったけど。
でも、不思議と嫌な気分がしなかったのは、母の面影が見えた所為かもしれないと、私はいく道すがらそう思った。
「魅夜お嬢様、お迎えに参りました」
「まぁ、羅刹!今日は早かったのね!丁度よかったわ、せっかくだから上がっていってくださる?」
「え?いえ…っ!しかし…」
「いいから、いいから!ほら、早くおいでなさって?貴女で“したいこと”があるの」
「は…?」
そういってご機嫌に私を引っ張っていくお嬢様に、私は困惑しながらついていく。
一体何をお考えになっているのか…。
少し冷や汗が伝う中、私が案内されたのは大きな衣装部屋だった。
最初のコメントを投稿しよう!