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男の人は屋敷の中に入ると、私を抱き上げたまま客間に入った。
そして、私を一つの椅子に座らせるとそのまま何処かへ行ってしまった。
「しばらくお待ちくださいね」
その言葉だけを残して。
しんっと静まり返った部屋に時計の音だけが静かに響く。
しばらくして、ガチャっと扉が開く音がした。
「お待たせしました」
彼はそういうと私のそばにきた。…救急箱を持って。
「あっ、あの…っ!」
「直ぐ済みますから、じっとしててください」
彼は私の足をそっと持ちながらそういった。
私は、彼が厚意をもってしてくれているのだと思うと、何も言えなくなり、開きかけた口を閉じて黙ったまま彼が手当てする姿を見ていた。
彼が手当てをしている間、私はただひたすら鼓動が高鳴るのを押さえていた。
「はい、終わりましたよ」
どれくらいたっただろう。
男の人が手を止めてそういった。
見ると、とても丁寧に手当てをされた足があった。
心なしか痛みも感じない。
驚きにそっと足に触れる。
「あの、もう大丈夫ですか?」
男の人の声で私はふと意識を戻す。
―あ…、もう片付け終わってる。
すごく手先が器用な人なんだなと思いながら、私は男の人にお礼を言った。
男の人は目を細め、ふふっと笑うと、気になさらないでとだけいって立ち上がる。
「さて、取り敢えず話をしたいのですが、よろしいですか?」
男の人のその言葉に、私は二つ返事で頷いた。
了承したのを確かめた男の人は、私を見つめると話を切り出した。
「…何故、私の家の敷地にいたのですか?」
私は彼が言ったその言葉に、出来るだけきちんと伝わるよう、素直に言葉を紡ぐ。
配達の家がこの辺りで、探しているうちに迷い込んでしまったこと、家の敷地とは気づかなかったのはあまりこの辺に来ないからと一つ一つ正直に説明した。
「…そうだったんですか。すいません、ちょっと配達の住所を見せてもらってもいいですか?」
彼はそういうと、先程私と共に持ってきた荷物に書いてある住所を確認した。
「…あぁ、これは私の家のようですね、すみません、分かりにくい所をわざわざありがとうございました」
「そうだったんですか!?
い、いえっ!
こちらこそ気づかなかった上、大変迷惑をかけてしまい…本当にすいませんっ!」
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