第壱章―華の咲き始め―

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私は彼に頭を下げた。 彼は気にするなとはいったが、自分の落ち度は自分で責任を持ちたいと、私は彼をまっすぐ見つめて告げる。 彼は少し考えた後、僅かに微笑を浮かべて話を切り出した。 「なら、少しだけこの家の手伝いをしてくれますか? もちろん、報酬も出します」 「ほ…っ報酬なんていりませんっ! でも、お手伝いはさせてくださいっ! 何でもしますし、私、きっと役に立ちますからっ!」 私が息を切らしながらそういうと、彼は少しだけ微苦笑を浮かべる。 「何でもとは…簡単にはいってはいけませんよ。唯でさえ、慌てすぎで人とぶつかるのですから」 彼のいったその台詞に私は驚愕する。 おそらく…いやきっと覚えてくれているんだ。 曲がり角でただぶつかっただけなのに…。 私は、何だかほわっとした気持ちになった。 「…? あの、すいません…」 「あ、はい。何でしょう?」 「お恥ずかしながら、自己紹介をしていなかったので、お手伝いをしてもらうにあたって互いの名前を知らないでは何かと不便ではないかと思いまして…」 「あ、そうですね。 私も気づかなくてすいません。 では、私から…」 「いえ、女性から先に名乗らせるわけにはいきません。 私からさせてください」 彼は胸に手をあてそういった。確かに女性から先に名乗るのは非常識というか、男の面目が立たないというか、まぁ兎に角、何かしらの意味はあった気がする。 取り敢えず、女から名乗るのは避ければいいだけだから大丈夫かな。 「その、大丈夫ですか?」 「あ、はいすみません」 少しぼーっとしてしまっていた私は、慌てて彼に視線を合わせると、その声に耳を傾けた。 「では、改めて…私はひづめ…十二月三十一日十四楼(ヒヅメ/ジュウシロウ)と申します。 よろしくお願いしますね。 あなたは…?」 「私、私は…羅刹(ラセツ)。宮前羅刹(ミヤマエ)といいます。 こちらこそ、よろしくお願いいたします」 そういうと、私たちはお互いに会釈を交わした。
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