第壱章―華の咲き始め―

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「え、人間のお屋敷で小間使いを?」 あの後、一応親族に了承を得てからの方がいいと、私は家に帰らされていた。 「お母様、小間使いではなくて、ただのお手伝いなのですが…」 「似たようなものです。しかし、迷惑をかけたのならそれは致し方ありませんね。わかりました、あなたの気がすむようにしてきなさい」 お母様のその言葉に私は嬉々とした表情を見せた。 「ただし。掟を破るような事をすれば、すぐに呼び戻しますからね?いいですか?」 念押しのようにそう告げる母を見て、私は少し表情を曇らせて俯いた。 そう、私の一族にはある掟がある。 それは、一族以外を愛してはいけないというものだ。 私たちは羅刹という鬼の一族で、今から約200年ほど前から人間たちの中で人間のように暮らしている。 しかし、羅刹は決して他の者の血を受けつけることは出来ない。 そのため、一族を分散し、他から見たら他人にしか見えないようにした。 これなら、一族同士でも、怪しく見られない。 元々人間の世界には、将来結婚するための許嫁というものもあるから、例え他人過ぎても、仲良くし過ぎても許嫁と言えば済む。 そうやって、私たち一族は同族の中のみで繁栄してきたのだ。 だけど…私はこの決まりが幼き頃から嫌いだった。 生まれる前から結婚するべき相手が決まっているというのは、将来がすでに決定してることだから。 自分で自分を自由に出来ない。 心を殺して生きなければならない…それが、とてつもなく、嫌だった。 私は、母様との話を終えると、寝室に戻った。 出来ればもう、何も考えないでいたいと思ったから。 私は、布団に入り込むと静かに瞳を閉じた。 そして、明日から始まる新しい仕事、職場に胸を少しだけ踊らせた。 少女は知らない。 この時、それとは別に芽生えた感情の名を…。 トクン…。 眠りにつく少女の鼓動が静かに脈を打つ。
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