第貳章―感情の名―

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翌朝、私は目を覚ますと、急いで支度を始めた。 今日から新しい職場で新しい主人の元、新しい仕事をする。 考えているだけで私は胸が弾んだ。 あぁ、楽しみだなぁ。 私は待ちきれないとばかりに屋敷を飛び出すと、十二月三十一日さんの住まう屋敷まで急いていった。 (相も変わらず…大きいお屋敷…) 見上げながらに私は思った。 本当に今日からここが、私の新たな仕事先なんだな…と。 (…って、いけないっ!呆けてる場合じゃなかった!) 私ははっと我に変えると、門を叩いた。 コンコン…と叩いてしばらくすると、一人の老婆が現れた。 「誰ですかんねぇ…?」 「あ、始めまして、本日付でここで使用人として働く、宮前羅刹といいます。どうぞよろしくお願いします」 出来るだけ落ち着いたペースで応答し、私は頭を下げた。 すると、老婆はふんっと鼻を鳴らした。 「まぁ…った、ぼっちゃんの気まぐれかいのぅ。…一体いつになったらやめてくださるのか…はぁ。そんで、娘さん?あんたは、一体いくらでぼっちゃんに買われたかいのぅ?」 「はぁ?」 「いくらで雇われたと聞いとんのやぁ、さっさと答えんかい!トロくさいやっちゃっのぉ」 なんだか、言い方が刺々しく、嫌な感じ…。 でも、そんなのちっとも気にならない。 気にしてたら時間が無駄だ。 私はなんとか楽観的に考え、老婆に向かい笑みを浮かべた。 「私は、確かにここの十二月三十一日十四楼さんに雇われましたが、一切の報酬は受けてません」 「…あぁ?報酬はない…じゃとぉ?」 「はいっ!私は、あの人に報酬なく雇うと契約しています。つきましては、一切の雇われ金は頂くことはございません」 私は真剣な顔で言うと、老婆は目を開かせ驚愕に似た顔を見せると、すぐまたスッと冷たく目を細めた。 「ふん…なんがあってそんだらこったぁな取引なっとぉか知らんがのぉ。あんたが働くこたぁ認めとらんさきにぃ…やるなら認められるんよぉ、まぁ…精々頑張るこっちゃねぇ…」 と残し、私から背を向けた。 「ほんだら…行くさかいのぉ、着いてきたらぁええがや。まぁ、途中ではぐれたとて知らんがのぉ。ククッ…こっちゃぁで?」 老婆はそういうとスタスタと歩き出していった。 私はそれにはぐれないように、急いで老婆についていった。
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