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――――――
家のドアを開いた。
「ただいまー!!あのさー母さん聞いてよ!」
松坂は靴を脱ぎながら叫んだ。
「ワンッ! ワンッ!」
タイヨウが吠えている。その鳴き声は少しいつもと違う。
「俺さ!神奈川県選抜に……母さーん?ありゃ?」
しかし松坂はそれには気付かず百合子を探す。
「ワンッ!ワンッ!」
また吠えている。
「どうしたタイヨウ?…そうだ!今日父さんの誕生日だ。祝わなきゃな。ヨーシヨーシ」
松坂はタイヨウの頭をよしよしと撫でた。
「クゥーン‥」
タイヨウは甘えたかのような、あきれたかのような声を出した。
チーンチーン‥
仏壇で線香に火をつけた。線香の独特な香りが漂う。
秀輔は目をつぶった。
「父さん、誕生日‥おめでとな。俺は先月15になったぜ!父さんに教えてもらった野球、頑張ってんだ。ほら、見ろよ‥神奈川県選抜のエースだぜ?ハハ‥」
「ワンッ…」
タイヨウがさっきにもまして落ち着かない。
そわそわと辺りを歩き回る。
「父さん…上から見ててよ。俺、母さんと2人で頑張ってみせっから!」
「ワォン!!ガルル‥」
何かを警戒している。
「タイヨウ‥?」
松坂がおかしいと思った時。
ピーンポーン…―
うちのベルが鳴った。
ガチャンとドアを開けると汗だくで息の切れた監督が立っていた。
「‥監督!!」
「ハァハァ‥秀輔!!すぐこいっ!タクシー呼んだから!」
「なによなによ‥どこに連れてこうってぇの?」
空気に気付かなかった松坂はふざけて監督に話し掛けた。
「ガルルルル‥」
タイヨウは警戒していた。
それは監督でもなく、ベルの音でもなく…―
「神奈川総合病院だ。」
これから来る未来にだ。
「病院ね‥って、へ?」
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