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―――――――
9年前…―
父、松坂浩輔が死んでから2週間‥
松坂の目に光はなかった。
「‥‥」
だらりと壁にもたれかかる松坂。昼間からずっとこうしている。
「秀、お腹‥空いたよね?」
百合子が気を遣って言った。
「‥」
無言は続く。
「お母さんご飯作ろうか!あんたろくなもの口にしてないでしょ?」
松坂は父の死のショックから立ち直れず、ただ壁にもたれているだけの人形のような状態だった。
「ねぇ聞いてる?」
「‥イラナイ」
たまにしゃべった声はか細く、涙で目は真っ赤だった。
母ももちろんショックだったが、自分が親である事を再確認し、なんとか1人で涙を押し殺していた。
しかし、ただの抜け殻の秀輔を見るとつらい。その思いのせいで間違って秀輔にあたってしまう。
「ぐずぐずしてないでシャキッとしなさいよ!男のくせに!!」
自分でも分からないうちに言ってしまっていた。そしてすぐ後悔したが、もう遅かった。
「なんだと‥」
秀輔もわかっていた。このままじゃダメなことくらい。だから改めて親に言われると腹が立ち、逆ギレしてしまう。
「あんたがこんなんだとお母さんが大変なの!!」
もう止まらなかった。
「じゃあ俺が出て行けばいいんだな。」
秀輔は重い腰をあげ、夜遅いのにも関わらず出て行ってしまった。
「もう‥知らない!」
2人とも精神状態が普通ではなかった。というより、普通ではいられなかった。
母が寝てしまおうとした時、ベルが鳴った。
「誰よこんな時間に‥」
ガチャンとドアを開ける。
立っていたのはキリッとした顔立ちでかなり体格のよい、スーツを着た男の人。
「夜分遅くに申し訳ございません。私は神奈川県警の佐倉という者です。松坂百合子さんでしょうか?」
松坂百合子は秀輔の母である。
「はい‥」
母なぜ警察が家に来たのかすぐに把握できなかった。
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