2 探り合い

2/20
前へ
/383ページ
次へ
 「フレッド=レインは窓から一階に降りた」  「え? どうやって?」  「ベッドの上にシーツがあるよね。彼はそれを幅十センチメートルくらいに引き裂き、結び繋いで一本の長いロープを作った」  「そっかあ。シーツのロープで降りたんだ」  「その通り。シーツのロープには結び目があるから、それが滑り止めにもなる。この部屋に材料はある」  「でもここは五階。三階とはわけが違うわ。シーツの丈だって、足りないさそう」  瑞樹は表情を曇らせる。  「確かに目の眩むような高さだ。間違って落下したら、まず命はない」  「私、下りられない。気を失いそうよ」  窓から湿気を含んだ空気が室内に流れ込んだ。時刻はまだ午後八時半。窓からは光に彩られた夜の街がよく見渡せる。  「瑞樹が無理なら仕方がない。他の方法を考えよう」  義人は瑞樹の手を取る。瑞樹は暫く義人の指を弄っていたが、ふと目線を天井に向けた。  「ねえシト。携帯で警察に知らせようよ」  義人は一瞬戸惑う。確かに警察に知らせれば助けが来るだろう。しかし義人には知られたくない事情があった。  「だめだ」  「でも緊急事態よ。人が殺されたわ。きっと扉の外には死体が転がってる」 .
/383ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1530人が本棚に入れています
本棚に追加