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小鳥はそんな旅人を見てからからと笑いました。
「鳥だって喋れますのよ。ただ、人間の前では喋らないだけなのよ?」
旅人は脱帽しました。
「いや、すまないね。これだから人間ってやつは目の前のことしか信じない」
「いいのよ、旅人さん。私たちだって話せることを知られたくないのだから」
小鳥の話に、旅人はふと思い付きました。
小鳥を見ると愛らしい動きで小首を傾げました。
つぶらな黒い瞳は、どことなく面白がっているように見えます。
「どうして私が旅人さんに話しかけたのか、そんな顔をしているわね。旅人さんは嘘がつけない人ね」
「はは。よく言われるよ」
旅人がそう飄々と言うと、小鳥はまたからからと笑いました。
「そういう旅人さんだから、私は話しかけたのよ」
小鳥はひとしきり笑うと、そうだわ、と言って自らの長い尾を啄み始めました。
旅人が驚いて止めようとする前に、小鳥は自らの長い尾を一本取ってしまいました。
「大丈夫かい、自らの尾を取ってしまって」
「大丈夫よ。一本くらい無くなったって、またじきに生えてくるわ」
小鳥は小さなくちばしにくわえた長い尾を、旅人の手のひらに乗せました。
その尾は根本の鮮やかな黄色から、先端に向けて青の美しい尾でした。
「それ、旅人さんにあげるわ」
「いいのかい?」
「もちろんよ。旅人さんの旅路がいいものでありますように願った、お祈りの尾だから」
旅人がありがとう、というと、小鳥はどういたしまして、と笑ったように見えました。
旅人はもらった尾を帽子に差すと、小鳥に別れを告げまた歩き出しました。
しばらくすると、森の終わりが見えてきました。
旅人は帽子に差している尾を一撫ですると、笑顔で森を抜けました。
後ろで小鳥たちの合唱を聞きながら、大地を踏みしめていきました。
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