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村を出て、森を抜けた旅人が最初に向かったのは一番近くの街でした。
近く、と言っても旅人の村からはかなりの距離があります。
旅人は踏み均された小道をたどります。
「やぁ、旅人さん!」
向かい側から馬車に乗ってやってきた商人に、旅人は声をかけられました。
商人は旅人の村にも訪れる、移動販売を生業としてました。
馬車にはたくさんの品物が積まれています。
旅人が幼い頃から顔馴染みの商人なので、旅人も気さくに返事をします。
「こんにちは、商人のおじさん。今日はどちらからいらしたのかな」
「なに、今日はちょっと遠回りして普段はないような物をたくさん仕入れてきたんだ。さっき、街で売ってきたところだから運がよけりゃ、買えるかもな。ところで、あんなちっさかったお前も遂に旅人になったか」
商人はしみじみと感慨深そうに、顎を撫でます。
なにか思案しているときの商人の癖です。
旅人はじっとその場に立っていました。
すると商人は考えが纏まったのか、ポンっと手を打つと。
「ちょっと馬の手綱、握っといてくれ! すぐ戻るから!」
そう言って、状況がうまく飲み込めていない旅人が手渡された手綱を握るやいなや、後ろの荷台へと姿を消しました。
すぐに荷台からなにかひっくり返したりするような物音が聞こえ始めました。
たまに商人が咳き込む声も聞こえます。
よほど掃除されていない箇所を探しているのでしょうか。
「僕はどうすればいいんだろうね…」
ぽつりと呟いた旅人に答えるように、馬が軽くいななきました。
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