わたし。

10/10
前へ
/10ページ
次へ
「ふぅ…」 一通り終わったのか彼は息を吐いた。 ともに静寂が訪れる。 「…へへっ、どうやった?」 「え、あ…綺麗やった」 直感に出た言葉だった。 しかし‘綺麗’では言い表わせられないほどの音色だったと思う。 「よかった、初めて人に聞かせたから」 「初めてやったん?」 彼は小さく「うん」と言った。 彼の表情は伺えないが、きっと赤い顔をしているのだろう。 「なんか…うーん、言い表わせへんわ。暖かくて優しくて…でもどこか心強くて」 思ったことをバンバン言ってったら、彼はいきなり笑いだした。 何事かと思い戸惑っていたわたしだったが、彼は嬉しそうに 「そんな褒めてもなんもでぇへんで!褒め上手やなぁ」 そう言った。 別に褒めているわけじゃなかった。 ただ単に思っていたことを正直に話していただけなのに。 でもわたしは彼が笑ってくれたことが、なんとなく嬉しかった。 「無理と褒めてるんちゃうのに…吹いてたの、何の楽器なん?」 .
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加