土曜日

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火曜日。 私は、河田司法書士事務所の前に立った。 一応声をかけたが反応が無い。 もう一度、声をかける 『あらぁ~お客さん?』 黄色い声が背後に浴びせられた。 振り向くと細くて背の高い女性が艶やかに笑っていた。 『あっ…はい…あの…』 私は、突然のことにあわてふためいていた。 『ちょっと待ってね…社長ぉ~社長ぉ!』 彼女は事務所の奥に怒鳴り付けた。 大きな足音が近づいてきた。 『あぁやこぉ!てめぇは何遍言わせたら解るんでゃあ!でけぇ声だして近所に迷惑かけんじゃねぇよ!第一オレァ社長じゃねぇ!先生だ!今日はお客さん来るからささっとけえれっつったべな!』 …ものすごく地方色の現れた言葉遣いで窓から顔を出したのは、司法書士の河田覚氏だった。 『なによ!あぁんたなんかアタシが居なかったら何にも出来ないくせに偉そうなこと言わないでよ!それとも何、明日からアタシがいなくなってもいいのかしら』 下からも大きな声で『あぁやこぉ』と呼ばれた女性が吠える。 私は、呆然としていた。 その間にも二人の言い合いはヒートアップしていた。 『ば河田ぁさいってぇ!』 『あぁんだとアホこ!』 ヒートアップと言うより幼児退行かもしれない。 …帰ろうかなと真剣に考えはじめたとき 肩を叩かれた。 『ねーちゃんお客かい?今はあの少年少女は忙しいからとりあえず上にあがりな』 背の高い細身の男性がネクタイを外しながら話し掛けてきた。 階段を登りながら、彼は呟く。 『あいつら昔からああなんだよ…仲が悪いわけじゃ無いんだ…コミュニケーションなんだわな…まぁ餓鬼なわけだ』 事務所の扉を開けると河田司法書士は未だ大声を張り上げていた。 『河田ぁ、お客だぜ…それもおまえ好みのいい女だ』 びくっと河田司法書士の背中が脈打った。 『綾子くん、お客様だ…君の得意なアイスダージリンを振る舞ってくれないか?』 窓を閉めながら振り向いた彼は、以前カフェで話をしたときの穏やかさだった。 『やまっさん…お帰り。それに大塚さんじゃないですか!今うちの事務員がお茶をいれるので…やまっさん…ちょっと…』 ぼそぼそと二人は話をした後、河田先生は肩を落としながら、『やまっさん』と呼ばれた方はニヤニヤしながら戻ってきた。 『大塚さん今日は取材でしたよね…前回お会いした際にあまりお話できませんでしたが、具体的にどのような事をお答えしたら良いでしょうか?』
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