梅と鶯

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先に動いたのは 又十郎だった。 「うむ 明け方着いたのじゃ   市よ  特に変わりは無かったか?」 「はい ご心配なさらずとも  平穏無事な毎日でしたわ。」 市の言葉は常に冷静だが 気持ちは張り裂けんばかりの 愛情で一杯であった。 それに呼応する様に小さく頷き 安堵の表情を浮かべる又十郎。 胸の内は武士らしく甘えを許さぬ気骨さがあった。 と しておこう 又十郎の口元が  【 市よ‥市よ‥ 】  と形作った気もするが‥ そうである。 市と呼ばれたこの奥方は 紛れもなく又十郎の妻であった。
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