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「啓二、20歳のカノジョとはうまくいってるのね?」
わずかな逡巡のあと、舞子は女の年齢を確認するため事務的に訊いた。
トーンを落として話す啓二の声を、一言一句聞き漏らすものかと耳をそばだてた。
気配や、口調の変化にまで神経を尖らせて。
『ああ、うまくいってるよ。……さっきはきついこと言ったけど、カノジョはやきもち焼きなんだ。つまんねー誤解をされたくなくてさ』
舞子は、思わず鼻で笑った。
バカみたいだ。
啓二の中では舞子のことなど、〝つまらない誤解をうむ存在〟でしかなかったのだ。
自分の中では、まだ何ひとつ終わっていないというのに。
だが、とにかく――と舞子は口を結んだ。
いまのやり取りではっきりしたことが一つある。
啓二は、篠原今日子の年齢を知らないままつき合っている。
どういうわけで今日子が年齢を偽り、啓二に近づいているのかはわからない。
しかし、その事実だけで舞子には十分だった。
舞子は脳内でパターンを組み替えながら、今後の作戦をシミュレートしていた。
教育者としての概念をもって、担任教師という立場を存分に生かすつもりで。
そしてひとつの納得いく手段を思いつき、電話越しの啓二に罠を仕掛けた。
「啓二、わたしの仕事に手を貸してほしいの」
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