電話のあと

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電気を点けないままの寝室は薄暗く、点したライターの火がぼうっと赤くシーツを照らしていた。 啓二は携帯をたたむとタバコに火をつけ、鳴り止まなかった着信音に考えを巡らせていた。 舞子は、あのように長々とコールを鳴らし続ける女ではなかった。 少なくとも、つき合っていた頃は。 どちらかと言えば冷静で、配慮もある、端々まで気のまわる女だったのに。 だからこそ余計に、舞子が切り出した件は奇妙で不自然だった。 急を要することなど何もない、あまりに単純な用件だったのだ。 そう順序だてて考えながらも、本当のところ啓二は薄々勘付いていた。 舞子からの着信が、仕事の件にこじつけてのものだということに。 淋しさから、掛けてきたにすぎないことに。 そう思わせる根拠はやはり、最後に顔を合わせた喫茶店での、舞子の不審な様子である。 あのときから、舞子がヨリを戻したがっているのは、何となく察していたのだ。 けれど――と、啓二はまだ半分残っているタバコを灰皿でもみ消した。 けれど、時間は誰にも平等に流れているのだ。 舞子に婚約者がいるように、自分にも今日子がいる。 それに、今日子とつき合って初めて、啓二は心底充実している自分を感じていた。 舞子のように、住む世界が違うわけでもない。 価値観も、合う相手。 自分を信頼し、明るく励ましてくれる今日子を、啓二は心から大切に思っている。 事あるごとに、職種が気に入らない、将来が不安だと言われ続けた舞子との4年間。 その日々を振り返れば、いまがどれほど恵まれているか、啓二には一層身に沁みてわかった。 あの頃に、戻るつもりはない。 舞子にはきついことを言った。 けれどあの着信音の長さが、舞子の執着心を表しているようで。 それを振り切るためには必要な冷酷さだった――と啓二は反動をつけてベッドから身を起こした。
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