電話のあと

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寝室を出ると、啓二はキッチンでいそいそと動く今日子に目をやった。 薄着をするな、と何度言っても聞かない彼女は、キャミソールにジーンズ姿だ。 茶色の巻き髪は耳に掛けて、その下には大きなループ状のピアスが覗いている。 すらりと背が高く、細身で、白いネコを思わせるしなやかな肢体。 こうして見ると今日子は、自分のような男にはもったいないようにさえ啓二には思われた。 事実、寮で顔を合わせる同僚たちからは、何度もそう冷やかされている。 その度に惚気てみせるのだが―― 今日子は水回りの作業をするつもりなのだろう。 首からエプロンを通し、背中で結わえている。 美しい容姿に似合わず家庭的な彼女は、結婚願望の強い啓二にはまさにうってつけのタイプだった。 いじめたらムキになって歯向かう、気の強い性格も気に入っている。 いまの幸せがずっと続けばいい。 そう思うけれど、啓二の胸には暗い影が潜んでいた。 それは、昼間上司の高木から呼び出され、告げられた件についてだ。 ――『岡田、お前先月異動願いを出したよな? あの時の気持ちに変わりはないか?』 ――『実は、人選が難航しているんだ。色々当たってみたが、皆嫌がってな』 ――『本社は5年以上の勤務実績が欲しいと言っている、絶対にではないが。最後までその線で考えてはいるが、最悪の場合頼まれてくれるか?』
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