電話のあと

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異動願いを出したのは、まぎれもない事実だ。 今更、先月とは事情が違いますなどと、言えるはずがない。 それに海外への異動は、キャリアを積む上でも、自分の可能性を試す上でもチャンスだ。 ずっと憧れていた活躍の場なのだ。 今日子は調理に集中しているのか、啓二の方には見向きもしない。 細々しく動いては、一心に手を動かしている。 その立ち姿を、横顔を見るにつけ、啓二は余計心配せずにはいられなかった。 ――もし中国行きが決まれば、今日子はどうするだろう。 海外へ異動したら最低でも2年は戻してもらえない。 ――2年も遠距離恋愛だなんて、可能か?  これほど若く、美しい今日子を残して? 仮に今日子が大丈夫だと答えても、啓二の方が気が気ではない。 かといって、まだつき合いだして間もない今日子に、「一緒に来るか?」だなんて訊きづらい。 県内ではないのだ。 国外なのだから。 それに、連れて行くとなると、籍を入れないままでは今日子の親も許さないだろう。 しかし結婚となると、果たして今日子にその気があるのかどうかも微妙だ。
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