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啓二は、元カノとヨリを戻したいのだろうか。
今日子の脳裏には、根拠のない憶測がつぎつぎと浮かんでいた。
その都度、まさか、と打ち消すのだが、しばらくするとまたネガティブな想像が襲ってくる。
そんな今日子の心中を推し量ったのだろうか。
急に啓二の物憂げな声が、沈黙を破った。
「仕事の話だったよ。今日子が気にするようなことは何もない」
啓二の指が、今日子の額にかかる髪を撫であげた。
「ホントに?」
今日子は手を伸ばして啓二の頬に押し当てた。
硬い皮膚の内側から、彼の返答と一緒に振動が伝わってくる。
「本当だよ」
啓二は頬を包む今日子の手に自分の手を添えると、神妙な面持ちで更に続ける。
「ゆびきり、したじゃん」
確かに、した。
けれど、急にそんなことを持ち出してくる彼がおかしくて。
「何で笑うんだよ! そこは笑うところじゃねえって」
今日子はシーツの中に潜り込むと、必死に笑いを噛み殺した。
本当は、胸の奥に訊きたいことがたくさん蠢いていた。
でも啓二の口ぶりを聞いていると、それがひどくくだらないことのように思えて。
啓二を信じないで、誰を信じるというのか――と、そんな気にさせられて。
今日子は彼の身体にしがみつき、きゅっと口唇を噛み締めた。
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