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◇
何となく薄汚れて埃っぽい教室は、携帯をいじってる子、DSをやってる子、様々だ。
窓際のカーテンはすぐそばの海から吹いてくる風に煽られ、
大きく膨らみ、波打っている。
そのカーテンの横、後ろから2番目の席が今日子の指定席。
校舎と校舎の隙間からわずかに海の見えるそこは、隣に一番仲のいい友達もいて、その点も気にいっている。
「今日子! オハヨ」
「オハヨ」
彼女は川口里美。
2年になってから出来た同じ人種、同じレベルな友達。
1年の時はモロに金髪だった髪を、2年になってから黒髪のストレートに変えたらしい。
――『男ウケがいいからね』
そう含み笑いをする黒目がちの瞳は、メガネのレンズ越しだ。
もちろんメガネだって実用性などまるでないオモチャで、
メガネっ娘路線のウケ狙いに決まっている。
「今日子さぁ、今夜暇ー?」
媚びるような上目遣いは、その角度まで計算されたような可愛いらしさで今日子の顔を覗き込んだ。
ふわりと鼻を掠めるのは、里美のなめている飴の匂いだろう。
甘い匂いが辺りに漂っていた。
「暇だよ」
里美の誘いは、どうせ駅前のカラオケ屋だろう、と今日子は予想していた。
そこで働くバイト君に、このところ里美はハマっているのだ。
男ウケだけを狙ってイメージまで改造する里美は、そのくせ片想いには滅法弱い。
パターンは、いつも大体同じだ。
暇を見つけては目当ての店に通いつめ、
ほんの一瞬だけ触れ合えるチャンスに胸をときめかせる。
そしてドキドキしながらドリンクを注文し、
その店員が運んでくると、恥ずかしさのあまり歌うのもやめてしまう。
里美はギャップが激しすぎる。
でもまぁ、そんなところも可愛い一面――
と、のんびり構えていた今日子はしかし、予想とは違う里美のプランにうろたえることとなった。
「やったね!
ひとりじゃ気が引けると思ってたんだよね。初合コンだしー」
「は? 合コン?」
「うん、合コーン」
まさか、と思ったが、やはり聞き間違いではないらしい。
里美は本気で合コンに誘っているようで、
「早速参加のメールを送らなきゃ!」
と携帯をいじっている。
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