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「ちょっと!」
今日子は慌てて手を伸ばし、メールを打つ手を邪魔した。
このままでは合コンのメンバーに加えられてしまう。
ろくに話も聞かないまま返事をするのではなかったと、今日子はすでに後悔していた。
というのも、今日子は合コンに良いイメージを持っていないからだ。
「え? カラオケ屋のバイト君は?」
今日子は里美が熱をあげていたバイト君の件を持ち出し、話の流れをかえようとした。
が、どうやらそれも失敗に終わったようだ。
「その話はもうやめて!」
聞き終わる前に顔をそむけ、里美は話を遮ってきた。
「あの人彼女いるんだって。あたしにうろちょろされるの、迷惑だ、って昨日言われたの。
だから憂さ晴らしに合コン行くんじゃん?」
「え」
今日子にしてみれば、里美は一番大切な友達である。
振られたというのならもちろん慰めてあげたい。
しかしその手段が合コンというのはどうなのだろう。
納得できるようでできない。
「えー、でもどうして合コン……」
「春休みに派遣で知り合った友達から誘われてさ、女の子が足りないから、友達とどう? って。
会費も相手もちらしいんだ。タダだよ!」
「ふうん」
派遣の話なら以前里美から聞いたことがあった。
あまり大きな声では言えないが、里美は姉の身分証を使って本人になりすまし、派遣会社に登録をしたことがあるらしい。
高校生でもできるバイトとは待遇が違い、結構おいしいのだとかいう話だ。
それにしても――と今日子は横目で里美を見やった。
いくら親友の誘いでも合コンは乗り気がしない。
行ったことがないから食わず嫌いなのだけれど、それでも初対面の人と一緒に飲み会をすることくらいはわかる。
見も知らない他人と飲んで何が楽しいのかさっぱり理解できない。
それなら友達と遊ぶ方がよほど気楽では?
――と、これが今日子の本音なのだ。
しかし積極的な里美には今日子のようなためらいはないのだろう。
こちらの意向を聞くことなく話を先に進めだした。
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