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彼は探偵調査という名目でクラブに行こうとしていた。
それは仕事に向けた情熱ではなく、あの赤い髪の少女に会うためのものだった。
白百合小百合、彼はこんな人間である。
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事件現場である城外組の本邸の組長室には、スーツの警官二人と最低限の鑑識の人間、城外組の人間が積めていた。
中に十余人は居るが、組長室にはそれでもまだ空きのスペースがあり、そこに一人の女性のスーツ姿の警官が居た。
知的な赤いフレームの眼鏡を掛け髪を後ろで結んび、スーツに身を包み下はスボンだが、アンバランスにスカートも着ていた。
「課長も厄介な時に居ましたね」
女性と同じくスーツ姿の男性警官が親しげに話し掛ける。
課長と呼ばれた女性は目頭を軽く揉みながら、男性に答えた。
「今日は新しく配属される部の歓迎会というのに……、先方には連絡はしたから今はこちらに専念だ」
やれやれ、と不運な自分を励まし、女性は鋭い目付きに戻る
後ろでまとめた髪を揺らし鑑識作業をしている警察官に背を向け、隅で集まる城外の組員の所に歩み寄る。
「再三確認しますが、この部屋の中は密室で、あなた方が扉を打ち破るまでは内側から鍵がされていたのですね?」
「あぁ、そうだ。親父に用があって行ったら鍵が閉まってて、俺はてっきり客が来て閉めてると思って二時間くらいしてからまた行ったんだよ」
「ちなみにその用とは?もし答えられないならお聞きはしません。そちらの答えられない用は“こちらも承知していますから”」
女性が言うと組員は目を反らした。
「分かりました。では続きを」
「……それで、また親父の部屋に来てよ。まだ鍵が掛かってるから、他の奴に親父が誰と会ってるか聞いたんだよ。用が用だから早く言わねぇと……いけぇからな」
歯切れの悪い言葉だが、女性はその理由をすでに上司から聞かされていたので、彼の挙動に対し特に眉をひそめることはなかった。
「でも、そんな奴は来てなくて、親父は持病持ちだからなんかヤバイと思って叱責覚悟で他の奴らと扉をぶち破ったんだ……そしたら、“スゥーって風が吹いて”中を見たら親子や他の奴らが……」
「………」
顎に指を添えた女性は手帳に何かをメモする。
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