『探偵』(前編)

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それには所属するホステスの顔写真と簡単な自己紹介が書かれていた。 白百合がパラパラとページをめくっていると━━ 「なお、初回様は一人ご指名30分は無料ですので」 「え、マジで!」 思わずそんな言葉が出てしまった。 固まるボーイに白百合。 どんだけ嬉しいんだこの客は、とボーイの表情に出てしまっていた。 「あー、いやですね。いい店ですね!」 なんとか体裁を取り図る白百合だが、すでにボーイの顔には苦笑いしかなく、「では決まりましたらそちらのベルをならしてください」と矢継ぎ早に言って、席を離れてしまった。 「……やってしまった」 頭を抱える白百合。 こういった店へは立ち寄らない彼は、こうしたサービスが案外一般であることを知らず。 たまたま調査に入った店でこのようなサービスを受けられて、自分はラッキーだと思ってしまったのだ。 「あーもう、どこの痛い客ですか僕は」 言っても後悔しても事態は後退せず、前進するのみであった。 白百合は傷心のままで、今回このクラブにいるだろう例の赤毛の少女をファイルから探す。 例の少女はファイルの片隅にひっそりといた。 源氏名だろうか名前は『ユキ』とあった。 年齢は二十歳。 「にぃしては若い顔だよね、今流行りの童顔ってやつ?」 良いながら白百合はスーツの内ポケットから、しずかが提出した写真とファイルの彼女とを見比べた。 写真とファイルと彼女はガッチリと一致していた。 そこで白百合はほくそ笑んだ。 写真をポケットにしまい込み、ソファーの背に身を預け足を投げ出すようにして天井を仰ぐ。 「新田しずか、ふっ。詰めが甘いのか……それとも……まぁ、30分は楽しまないとね」 何か納得したような、それでいて楽しそうに白百合は言って体を起こしてあのベルを鳴らした。 ぼどなくしてやって来たボーイに、白百合はユキを指名すると言った。 かしこまりました、とボーイは礼をして襟元のピンマイクに向けて二、三告げた。
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