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ユキがやって来たのはそれから二分も掛からなかった。
「こ、こんにちは!ユ、ユキです、ご指名ありがとうございます!」
周りから元気な子だなと、覗き見る客をよそにユキは白百合に向けて頭を深く下げた。
「まだ入りたてで、粗相のないよう教育はしていますので。ごゆっくりお楽しみください」
ボーイはユキに小さく、「気を付けなさい」と言われ、シュンと気落ちする。
が、すぐに立ち直り白百合の隣に「失礼します」と座ってきた。
それを見てからボーイは立ち去っていった。
「すみません。私ってそそっかしいというか、世間知らずで」
「いいよいいよ。僕の所には大きな子供が二人、いや三人は居るからさ」
「お子さんが居るんですか!?」
ユキは心底驚いたのか、またも大きな声を上げた。
「あっ!……うぅ」
すぐにユキは身を硬め、背後のカウンターの方に振り向くと、そこにはあのボーイが腕を組んで眉をピクピクさせながら彼女を見ていた。
「マネージャーにまた怒られそう……はぁ」
「あぁ、あの人マネージャーなんだ。てっきりボーイさんと思ったよ」
「なんですよー!ガミガミ言うんですよ!?歩き方とか、しゃべり方とか、お酒の作り方と、か。って、………」
そこで彼女は気付いた。
ここは学校の教室でも、友達同士の電話でもないことに。
「お酒……何にしますか?」
白百合は小さく息を漏らす。
「なら、作れるものを作ってくれ。僕はそれほど飲める口じゃないからね」
「わ、分かりました!」
ユキはパタパタと絨毯敷きの床を軽く掛けていった。
酒の用意をしに行ったようだった。
「というか、それはこのベルを鳴らすのでは?」
視線の先で銀色に光るベル。
その役割を全うできず、その輝きも霞んで見えてしまう白百合だった。
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