『探偵』(前編)

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ユキがやって来たのはそれから二分も掛からなかった。 「こ、こんにちは!ユ、ユキです、ご指名ありがとうございます!」 周りから元気な子だなと、覗き見る客をよそにユキは白百合に向けて頭を深く下げた。 「まだ入りたてで、粗相のないよう教育はしていますので。ごゆっくりお楽しみください」 ボーイはユキに小さく、「気を付けなさい」と言われ、シュンと気落ちする。 が、すぐに立ち直り白百合の隣に「失礼します」と座ってきた。 それを見てからボーイは立ち去っていった。 「すみません。私ってそそっかしいというか、世間知らずで」 「いいよいいよ。僕の所には大きな子供が二人、いや三人は居るからさ」 「お子さんが居るんですか!?」 ユキは心底驚いたのか、またも大きな声を上げた。 「あっ!……うぅ」 すぐにユキは身を硬め、背後のカウンターの方に振り向くと、そこにはあのボーイが腕を組んで眉をピクピクさせながら彼女を見ていた。 「マネージャーにまた怒られそう……はぁ」 「あぁ、あの人マネージャーなんだ。てっきりボーイさんと思ったよ」 「なんですよー!ガミガミ言うんですよ!?歩き方とか、しゃべり方とか、お酒の作り方と、か。って、………」 そこで彼女は気付いた。 ここは学校の教室でも、友達同士の電話でもないことに。 「お酒……何にしますか?」 白百合は小さく息を漏らす。 「なら、作れるものを作ってくれ。僕はそれほど飲める口じゃないからね」 「わ、分かりました!」 ユキはパタパタと絨毯敷きの床を軽く掛けていった。 酒の用意をしに行ったようだった。 「というか、それはこのベルを鳴らすのでは?」 視線の先で銀色に光るベル。 その役割を全うできず、その輝きも霞んで見えてしまう白百合だった。
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