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少しして『ありました』と、奏がページをさらに開く。
『新田幸、母親と共に自家用車で帰省……ですって。パパさんとママさんが変わったからってなんだってンですか所長』
『いんや、これで十分さ。その写真の可愛い子、見覚え無いかい?』
『な、なんですか。他人のそら似を運命だと痛いこと抜かす気ですか』
『僕はそんな痛い子じゃありません!』
奏は怒鳴る白百合に耳に手を当ててしのぎ、言われた通りに掲載された新田幸の学校の生徒写真を見る。
『………、これと言って何があるわけでも……やっぱり運命だと━━』
『あー、何度も言うようだけど。僕は女の子には優しいけどそれはあくまでも厚意であり、好意ではない!』
『筆記しないと分かりませんて、あの“二人”よりですけど私だってまだ漢字は得意じゃないんですから。あんなり言葉遊びはしないですださいよ』
いじめられ拗ねた奏は口を尖らせるが、それを見た白百合は『可愛いぃぃ!!』と胸を押さえてソファーに倒れ込んだ。
『いや、マジ奏は僕の事務所の天使だ。ねー奏、昼間も事務所に来ない?あのクソミソや裸族と代わってさ』
『無理ですよ。あたし夜行性人間だし、それに所長はあたしの……』
そこで言葉を区切った奏。
そうした彼女に白百合は天井の蛍光灯を眺めながら、額に手の甲を乗せる。
『分かってるさ。それが君の“対価”だ。ものの例え、僕の出来なかったことへのしわ寄せだって自負しているし、奏。僕は君さえ幸せなら良いと思う。去年この事務所にまだ看板が無い頃からのよしみだけど、それはまだ忘れないし、忘れられない』
白百合は片方の手で自分の胸を撫でるようにして触れる。
『僕のわがままが今のこの状況だ。……ふっ、なんだろな。これから可愛子ちゃんに会いに行くのに、勝手にモチベーションダウンさせて……』
『別にあたしは所長や“宮さん”のお陰で何不自由無く過ごせて、好きなことを好きなようにやらせてもらっているだけですから。あの二人にも、出来るなら同じ言葉を掛けてください。あの二人も所長のことが大好きなんですから』
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