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すると、その触れられた男の拳が張りつめた風船のように弾けた。
「ぎゃああああッ!!」
「な、なんだよ、なんなんだよ!!」
破裂しなくした手の先を押さえる男に、わけも分からず理解の範疇を越えてしまった男は喚き散らす。
本来、冷静に主人を守るガードの二人は完全に理性が吹っ切れていた。
常識というものが決壊した惨状であった。
「ふん、気を抜きました。新着のスーツがあなたの血で少し汚れました。今度は綺麗に弾いて差し上げます」
オールバックの男は手を無くし床でのたうち回る男の顔面を鷲掴みにする。
「ひぃぃ!!た、助け━━」
「嫌ですよ。これもマネージメントなんですから」
オールバックの男は手に力を入れるわけでも無く、体を特に動かすわけでもなかったが、掴まれた男は弾けた手と同様に男の体自体が弾けた。
しかし、それは飛び散るらずぐちゃぐちゃと嫌な音を鳴らしながら男だった塊が堆積する。
あまりに残虐な光景にオールバックの男は尚もニヒルに笑みを浮かべた。
「さて、と。お遊戯はここまでです。そろそろ“依り代”の濃度も下がってきましたからね」
オールバックの男は塊を避けながら、老人と恐怖に顔面を蒼白とさせた男のもとに歩み寄る。
「クライアントの希望はそこの老人の殺害、邪魔な勢力は排除。外の六人もすでに片付けましたから、あとは老人とあなただけです」
「クライアント……ワシを殺そうとした者が……」
「そういうことだ。マフィアなんだから、そういったことは日常茶飯事だろ?運が悪かったと、諦めない」
そう言ってオールバックの男は、音楽指揮者のように腕を振るう。
その後、二人は最初の男と同様に“窒息死”した。
オールバックの男の右手には紅い文字で『Ⅰ』と浮かんでいた。
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