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仕事で自己紹介をするとき、彼は自分の名刺を人に渡す。
その時の反応は皆が皆、一葉に同じである。
名刺を見る、彼の顔を見る、そして再度名刺を見て、また彼の顔を見る。
名刺には彼の肩書きである私立探偵と共に、彼の名前も当然書いてある。
それは当たり前だ。
だってそれが名刺だからだ。
名前の無い名刺なんて……と、そんな戯れ言はさて置き。
彼の名前を聞いた人も、名刺を渡された人と同じアクションを取る。
彼の名前は白百合小百合(しらゆり こゆり)
性別は男である。
白百合という姓はさておき、小百合というのは一般的に女性に付けられる名である。
彼の容姿は中性的でありながも、その雰囲気には男を匂わせるまだ若い好青年であった。
別に白百合が同性愛的な要素を言っているわけでなく、白百合小百合という名前が彼にはあまり合ってはいなかった、ということだ。
そうして今日も彼の顔と名刺を交互に見る人が彼のもとを訪ねてきた。
その人物の名は新田しずか。
腰まである艶のある黒髪を下ろし、女性としてかなり整っている顔には薄い化粧が施されており、彼女の素顔を生かしたメイクをしていた。
服装はこれから訪れる夏に向けてか、長袖のワンピースに白い帽子を被ってり、今は外しているが来たときはサングラスをしていた。。
その彼女が今回の白百合に依頼をしにきた依頼人である。
「まぁ名前の方はお気になさらず。これはいわゆる芸名とか偽名とかそういったものと理解してください」
「そ、そうですか」
しずかは戸惑いながらも、その名刺をハンドバッグにしまった。
「それで、当事務所にはどういった了見で? 大手を当たらない辺りを見ますと……」
白百合はニコニコしながらも、しずかの心の内を読むように口を動かす。
「いやね。僕のような私立探偵が少ないのは、単に探偵協会のようなものに入れないのは勿論ですが。なにか、大人数や知れた場所には依頼したくない依頼をするときに訪れる人が来るんですよ。ここを開いて一年くらいですが、まだまだ学ぶことが多い」
次々と出る白百合の言葉にしずかは顔を伏せてしまう。
白百合は決して嫌な雰囲気を出さず、むしろ他人を思う優しげな感じ、自分ならあなたの依頼を達せられると言わんばかりであった。
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