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新田しずかが帰ったあと、白百合は直筆で書いたメモと、契約書を見た。
新田しずか。
新田食品の社長新田史朗の妻。
結婚二年目の夫婦であるが、史朗が立ち上げた会社の経営は右肩下がりで、今の不景気の煽りを受けていた。
と、ここは基礎的な背景であり、白百合に経営指南を受けにしずかが来た理由でないのは明白で、彼女の依頼は白百合の事務所開設以来の初めてのケースであった。
『なるほど、夫の史朗さんが覚醒剤を使用しているから、それを止めさせる証拠が欲しいというのですね?』
『はい、……夫は毎日のように疲れて帰ってきてはすぐに布団に入るような生活をしているので、薬に救いを求めたのかも……』
『しずかさん。そう思うからには、それ相応の“証拠”があるんですよね』
しずかは頷き、名刺をしまったハンドバッグの中から何かを包んだ、白いレースの施されたハンカチを取り出す。
それを白百合としずかの間に置かれた机の上に置き、白百合に向けて差し向けた。
確認します、と白百合は断り、その白いハンカチの包みの中を確認した。
彼の予想は裏切られずに、目の前に現れた。
それは小さなビニール袋に入っていた。
一見すると白い何かの粉末に見えるが、白百合の勘がそれがさきに言った覚醒剤と見た。
人を悦楽に陥れ心を蝕み未来を絶やしてしまう、触れてはならない薬。
それが白百合の目の前にあった。
しずかに目線を向けると、彼女はその袋から目を背けていた。
それだけでこれが今件の根本的な物なのだと確信した。
『はっきり申し上げます。これは探偵に依頼するようなことではありません。警察機関に任せるべき犯罪なのです。もしテレビや小説でのイメージで僕のもとを訪れたのならば、それは間違いです』
『分かっています。夫には自首を促します。……でも、白百合さんにはこれを夫に渡した女の尻尾を掴んで欲しいのです』
そうして彼女はハンドバッグから一枚の写真を取り出した。
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