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そこには赤く染めたろう赤い髪の若い女が写っていた。
写っているのはこの辺のクラブだろうか、ネオンの光が彼女の近くの店からも周りからも写っていた。
『彼女はシフトというクラブで働いているホステスです』
『……これはご自分で?』
『私は夫を陥れたこの女が許せないのです、夫が裁かれるのに。この女はのうのうと、私の夫のような人をまた作ると思うと腹が立って……警察へ、とも思いましたが。初動が遅れるとこの女を取り逃がすと思って……今思うと、よくやったなと思います』
しずかは自分の腕を抱く。きっと感情に任せた自分の行為が今になって怖くなったのだろう。
それだけ彼女が真剣に新田史朗のことを想い、彼を陥れたこの女に憤慨しているのだろう。
それからクラブの場所を聞いた白百合は依頼を引き受けることにした。
始め彼はこの依頼を断ろうとしたが、しずかの思い詰めたろう心を汲んで依頼を引き受けた。
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白百合は彼女が置いていった、その薬の売人とおぼしき女の写真を眺める。
よく見ると、写真の女はまだ若く見えた。
むしろ、まだあどけなさの残る少女のようであった。
赤い髪と彼女の着るチャイナドレスのような衣類のせいで、あの場では気付かなかったが。
「こう見ると可愛いな」
呟いた。
「新田しずかが綺麗系なら、彼女は可愛い系だ」
依頼人の敵というのに白百合はそう呟く。
赤い髪の少女は写真に写っているのを見た限りでは、しずかの言ったような悪事を働くような風には見えず、ホステスという職柄にもあっていないように映る。
「久しぶりの依頼が美人だとやる気がでるなー」
事務所に一人で居るからか、白百合はしずかの依頼を聞いていたソファーに座ったまま体を伸ばした。
白百合小百合はしずかに渡した名刺にある通り探偵で、この白百合探偵事務所の所長である。
探偵と言っても、それは探偵事務所を開いたから探偵という肩書きが付くだけで、彼が特に探偵らしい探偵という保証ではない。
探偵などというものは民間の調査機関であり、昨今世間で考えられている事件を解決する探偵ではもちろんない。
そんなことをすれば捜査妨害、引いては公務を妨害することになり懲罰を受ける。
探偵とはそういうもので、その生業は浮気調査や内部調査。
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