『探偵』(前編)

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調べることが本職であり、今回のようなケースは白百合がいうように探偵のする仕事ではなかった。 しかし、いくつか連携して協会を作っている探偵事務所とは違い、白百合探偵事務所は私立の完全個人事務所である。 だから白百合は、新田しずかの依頼を引き受けられたのだ。 だからというか、情に流されて無理な依頼を受けることもしばしばある。 しかし、無理な依頼であるが。 “達成不可能な依頼”ではなく、受ける“筋合いの無い依頼”を白百合はすべてこなしている。 私情を仕事に踏まえることはあまり喜ばしいことではない。 むしろ、厄介事を抱えることが多い。 だから同職者どうしで寄り添い、そうした私情を挟もうとするのを互いに監視し合っている。 と、白百合は思う。 集団というのは十を一にする。 圧縮され強くなった個人となる。 だがそれは同時に個人に十の意見が存在するという点。 それは強大な個人に付けられた亀裂。 案外集団というのは、そうした亀裂を触れるだけで瓦解する。 それでも集団を形成するのは互いに協力関係を築けるからであり、それを維持するための監視である。 そこを踏まえると私立探偵にはそうしたしがらみはないが、同時に後ろ楯が無く。 ゼロからの出発となる。 それはなまじの苦労ではなく、探偵とは信頼さてれでないと、調査した結果を信じてもらえず。 最悪契約を反故にされる可能性すらある。 そうした面で、依頼人に自分を信用してもらう必要がある。 白百合の場合は対して知名度はないが、その仕事は完璧を通り越して依頼内容を越えるくらい過度に調べる。 それもあるいみ私情であり、彼の理念だった。 求められた以上を調べ提供する。 白百合小百合は私情を挟む珍しい探偵だった。 だから、新田しずかの依頼には人一倍気合いが入り、件(くだん)の少女は新田しずかのいうような悪事をするように見えなかった。 写真に写った第一印象よりも、彼のこれまでの“経験”がこの少女はそういった類いのことをしないと考えていた。 勿論依頼人の意見は最大限汲み取るが、事実というのは私情を挟んでも覆すことは出来ず。 ありのままを映し出す。 白百合はこの少女が新田しずかの夫新田史朗に覚醒剤を売買しているとは思っていなかった。 が、それも白百合の希望的経験的観測でしかなかった。
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