チャーリーへの鎮魂歌

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チャーリーは知り合って一年以上にもなるがそのように自分のことを語らなかったジムが今日は違っていることに途中から気がついた。もう少しジムのことを聞いてやろうという気持ちを抑えられなくなって、彼は言った。「テキサスには長くいたのかい、ジム」ジムは首を振って、いやと答えた。その時のことを思い出したのか、それとも自分の身の上話をしたことを後悔しているのか、ジムは唖にでもなったように先を続ける様子がなかった。チャーリーはそのような雰囲気に耐え切れずつい喋りはじめてしまった。「長く居られる場所じゃないと親父も言っていたよ。俺たち家族を連れてオクラホマに逃げてきたいきさつを、一度だけ話してくれたっけ。俺が生まれる前のことでね。おふくろが親父と同じ映画館でピアノを弾く仕事をしていなかったというから、たぶん俺が腹ん中に入っていたときだと思うんだ。街で大当りになった映画があってね、とにかく映画なんて貧乏人が見るもんで、まだよく言葉も喋れんような移民の連中が多かったのが、そいつに限ってダラスの街だけじゃなく、遠くからもお偉い白人や金持ちたち上流の奴らが押しかけたらしいんだ。確か内戦(南北戦争)を舞台にしたもので、南部人の勇気と誇りとやらを讃えたのだと言っていたっけ。とにかく、北部人と解放された南部の黒ん坊が手を握って、負けた南部の白人をいびるってわけさ。
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