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チャーリーが一年九ヶ月程前に「スイングの王様」と呼ばれる一流の白人クラリネット奏者のベニー・グッドマン楽団の一員に決まり、シティを去る前の晩のことだった。珍しくひどく酔っ払って昔の話をしてくれ、俺のように貧乏くじは引くなよと言って、傷だらけの食卓にうつ伏した父の姿は幼いころから知っている人とは別人のようにチャーリーには小さく見えたのだった。「ジム、結局俺たちのように生まれてきたのはこの国じゃ自分の罪なのかねぇ」「そうでもないさ」とジムは若いチャーリーを慰めるように言った。「今日はアップタウンで仕事をしてきたよ。たいした代物でね。ニューヨーク中の名士が集まったみたいだった。俺は気が張っていけないから、仕事が終わるとすぐに楽器をしまって帰ろうとしたんだが、主人が引き止めに来てね。いちいち偉いさん方の顔色伺いにご招待されちまった。全く奴らにかかったら、南部の連中の態度なんて純情そのものの正直者に見えちまうよ。私どもはあなた方の民族に敬意を払っておりますとくるからね。おまけに、黒い膚をしたエエとこの坊ちゃんたちもいてね。『君、タスキギー大学で音楽を専攻したの』っていうのにゃまいったよ。俺がどうで教わったかを知ったら、あいつ腰を抜かすのに賭けてもいいぜ。中にゃあの音楽をやっているのは私の仲間じゃありませんといった顔で、白人の娘相手にバッハ論をぶつのまでいたよ。全くこの国の黒ん坊もたいしたものさ」チャーリーは苦笑いをした。
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