チャーリーへの鎮魂歌

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チャーリーは重苦しく感じられるギター・ケースを片手に、ホテル・セシルのある通りにやっとたどり着いた。畜生、あの運転手の野郎、俺のことを馬鹿にしやがって。アップタウンにある一流ホテルで開かれた民主党議員の娘の誕生日パーティーが今日のチャーリーの仕事だった。その帰りに議員のお抱え運転手が、チャーリーたちベニー・グッドマン六重奏団のメンバーを送ってきてくれたのだが、最後まで乗っていたチャーリーの定宿がハーレムの中にあると知ると、その運転手はセントラル・パーク北端の西一一0丁目で強引に彼を降ろし、一時でも長くいると、その黒塗りのキャデラックが壊されてしまうかのように風を切って走り去ってしまったのだった。あいつ真っ白いブレザーなんぞ着やがって、自分の肌の色が同じように変わるかもしれないと思っているに違いない。チャーリーには白人の持ち物である新車が黒人地区でどんなことをされるかをよく知っていた。しかし、同じ仲間じゃないかと思うのだ。ああいう金持ちのところで働いていると黒人も腑抜けになる。俺も気をつけなければ。そう考えた時、安くない香水の匂いがして、チャーリーは自分の横に誰かがいるのに気がついた。「クリスじゃない。疲れたような顔しちゃって、誰かと思ったわ」この界隈では金のありそうな白人の相手しかしないコール・ガールで知られているキャシィだった。
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