チャーリーへの鎮魂歌

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そう言うとテディはまだ若いにもかかわらず、禿げ上がってきた額を隠すためにめったに取ることの無いダーク・グレイのフェルト帽を直して片目をつぶり、本当のことはジムのおふくろに聞いてみなとチャーリーをからかったのだった。テディと話し合ってから、チャーリーは街の中でジムの姿を見かけることが多くなった。夕闇せまるハーレムの街角で、何かに耳を傾けるようにじっと立っているところ。ネオン・サインが輝く騒音の中、アポロ劇場前の人並に逆らうように自分の世界に閉じこもり、アスファルトに転がった空き缶と話していることもあれば、陽気な褐色の街の女たちに囲まれていたり、身なりのよい大学教授のような紳士と深刻そうな表情で話し合っていることもあった。チャーリーはそのうちに、彼が他のまだ陽気なポン引きたちとは違うことに気がついた。確かにテディが言ったようにジムには仲間のはずである女たちを白人に紹介したあとの哀しさとか、うまく騙してやろうといった心を持ち合わせていないようだった。しかし、そうかといって黒人たちに向かっても、普通の白人のように妙に肩を張るとか、街の目を意識してへんに媚びへつらうようなそぶりをする様子も無かった。結局チャーリーはこの国の吹き溜まりのような場所で、彼自身の言うとおりに白人の顔をした黒人という運命的な生まれに沿って暮らしている老人と親しくできない理由があるわけがない、と考えたのだった。
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