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筒井さんの立っている所は、ぽつんと穴が空いた様に一人だ。
何時もそうだが、いつでもスポットライトみたいで格好良い、と密かに思っている。
隣に立つと、スポットライトは消えて、
後にはぼんやりとした彼だけが取り残されている。
「おかえり柚子さん。」
彼は言いながらもなお、両手をポケットに突き刺して、何かを漁っていた。
顔は何もない、
彼が履いている革靴の爪先を向いていた。
「何を探っているの」
聞いても、んーと唸っただけだ。
暫くしてようやく現れた右手に、くしゃりと握られた飴玉を差し出しながら
「寒いねえ」
私の持った鞄を取り上げた彼の服装は
黒いタートルネックのウールセーターに、
青く掃き古しのジーンズだけと、十二月のこの時期には寒すぎる。
私は飴玉を口に放り込みながら、自分の首に巻いたマフラーを取って
その彼の隠された首にかけた。
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