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「温かいな」
言葉とは裏腹に、唇からは白い吐息が漏れていた。
私は、増した寒さに肩をすくめた。
まるで、分け合うみたいだ。
マフラーひとつだけれど、私の持っている温度を筒井さんに分けてあげる。
そんな気がした。
私の隣で筒井さんは、煙草を取り出してライターの火を点けた。
じじじと小さな音がして、煙草からゆっくりと白い煙が立ち上る。
街は少し早いクリスマスに賑わって、過ぎ行く人も一見幸せそうに見える。
ショーウィンドウの硝子に写りこんだ私達は、その中で二人だけ浮いていた。
クリスマスツリーを模して、飾り立てられた大きなポプラの先の空は
夕闇色に染まっていく。
これから暗い夜がやってくる予兆の様に、鳥たちは皆同じ方角に飛んでいった。
まだ、四時を少し回った時間なのに、隣にいる人の顔は見えづらい。
「もうすぐ、クリスマスだねえ」
ぽっかりと煙を吐き出しながら言った。
ショーウィンドウに半分透ける様に、
高校生になった私が立っていた。
こうしていると、余り変わっていないのかもしれない。
あの頃の、まだ小さくて夕暮れに怯えていた私と。
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