レトリックス

4/7
前へ
/7ページ
次へ
「おい」モーフィアヌが言っ た。「ネ才、レザーコートに穴 が開いてしまっているぞ」  俺は言われて、自分の羽織っ ているコートを見た。確かに、 小さな穴が一つ開いていた。 「ブローニングがコートだけ貫 通していったらしい。気にしな いよ」 「いいえ」トリニチィが言っ た。「私が穴の開いた部分だけ 直してあげるわ」  トリニチィは俺に、コートを 脱ぐように言った。俺は従う と、それをトリニチィに渡し た。彼女はコートを広げ、穴の 開いた部分が見えやすいように した。 「これで穴は無くなるわ」トリ ニチィはカッターを取り出す と、俺のコートの穴の開いた部 分の周りを正方形に切り始め た。「これでいいわ。着てみ て」  俺は彼女から渡されたコート を着た。 「おい」モーフィアヌが言っ た。「穴が開いているぞ」  言われて、俺はトリニチィが 切り取ってくれた部分を見た。 本当だ、正方形に穴が開いてい る。どういう事だ? 「どうしてかしら?」トリニチ ィが言った。「確かに、穴は無 くなったのに…」  俺はコートを脱ぐと、再びト リニチィに穴を切り取って貰っ た。 「おい」モーフィアヌが言っ た。「また穴が出現したぞ」 「何故だ!」俺が叫んだ。「エ ージェソト・ヌミヌだって、こうはしつこくない ぞ…」 「オペレーター!」モーフィア ヌが携帯を取り出し、空を向き ながら叫んだ。「これはどうい う事だ? ピストルで撃たれた 穴を切り取って消滅させたの に、また新しい穴が出来ている ぞ? レトリックスのバグなの か?」 「ちょっとまて、調べる…」オ ペレーターの声が聞こえて来 た。「俺じゃ解らない。近くに 預言者が居るはずだ。彼女に訊 いてくれ」  見渡すと、同じ公園のベンチ に老婆が腰掛けていた。俺達は 駆け寄り、訊ねた。 「原因があれば、理由があるも のよ、ドーナッツはどう?」俺 達はかぶりを振った。「ドーナ ッツはね、穴が一番美味しいの よ」 「おい」モーフィアヌが耳打ち してきた。「彼女は何を言って いるんだ?」  俺は、解らない、と返した。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加