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「舞、おはよう」
登校の最中、後ろから声を掛けられた。
私はその声に振り向き
「おはよう、由希」
由希は同じクラスで飾らない感じの素直な可愛い女の子である。
転校してきたばかりの私はそんな由希とは直ぐに仲良くなり、クラスでも仲の良い友達の一人だった。
私は父の仕事の都合でアメリカから日本に帰ってきた。本当は4月、入学式に合わせたかったのだが、どうしても間に合わず6月に入ってからになってしまった。
私は少し中途半端な時期だし、憂鬱にもなったが、そんな子供の気持ちに合わせてくれる仕事も親もいない。逆にそこまでしてもらわなくてもいいと舞は考えていた。
背はそんなに高い訳ではないが、スラリとした手足に長めのストレートの髪。目は二重で、しっかりとしたその目は、意志の強さも備えているのは父親譲りなのであろう。
その日は梅雨に入ったばかりのムシムシした朝だった。
皆、一様に傘を持って登校していた。舞は赤い傘を持っていた。何の柄や模様もなく真っ赤な傘…。
「舞、その傘可愛いね。いいなぁ」
由希が目を輝かせながら言ってくる。
「ありがとう。赤、私好きなんだ。」
舞はその純粋な瞳の由希に笑顔で答えた。
由希のこういう純粋無垢なところは本当に可愛い。私が男なら放ってはおかないだろう。
実際に由希は学校でも人気があり、何人からも告白されたらしいが、その幼気な眼差しで男子を撃ち落としているらしい。
「私はピンクが好きなんだぁ」
そう言って左手にあるミサンガを見せてくれた。
「ピンクは由希に似合ってるよ」
由希の笑顔は少し鈍色の空を明るくしてくれるようだった。
《……雨…………約束》
突然頭の中を“言葉”が駆け巡る。
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