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口では博人を責めるようなことを言っているが、それは子猫がじゃれつくようなもの。本気で責めていないのは容易に感じ取ることができる。
その証拠に、みなもの屈託のないぱっちりとした瞳は大きく細められ、口元には可愛らしい犬歯が顔を覗かせている。
「まったく、しょうがねえんだから」
そう言う博人にもみなものこぼれるような笑顔が伝播したのか、ため息をついてはいるが顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。
「じゃ、行きましょうか!」
みなもはくるりと身を翻す。
制服のスカートがその動きにつられる。空と同じような青色が、彼女の腰元で鮮やかに花開いた。
「目指すはあの虹のふもと! レッツゴーだよ!」
緑の萌える山と、海の色を映したような空。
双方の間には二人が目指す虹が弧を描き、その向こうには入道雲が聳(そび)えている。
二人の行き先には、一足早い夏の風景が広がっていた。
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