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遠くの方でヒグラシの鳴く声がする。
博人はしばらく二の句が継げなかった。
「ん? どうしたの?」
「どうしたのってお前……」
首を傾げるというみなもの姿と、不純な気持ちなど一切ない無垢な瞳を向けられ、思わず博人は手を離してしまった。
「よくもまあ、そんなことを恥ずかしげもなく」
博人はみなもを置いて、一人で歩き出してしまった。
彼の顔が赤く染まっているのは、おそらく夕日のせいだけではない。
「ちょっと! 鞄忘れてるよ!」
みなもは二人分の鞄を手に提げ、慌てて博人のあとを追った。
「本当のこと言ってなにが恥ずかしいの! ちょっと博人くん! 聞いてるの!?」
みなもが水たまりを蹴飛ばして走る。
その水たまりに映った赤色の空には、微かに虹が掛っていた。
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