919人が本棚に入れています
本棚に追加
二人の間に沈黙が流れる。
その沈黙を埋めるかのように、どこかでセミがけたたましく鳴き始めた。
二つの校舎に挟まれた中庭に、一陣の風が流れ込む。
その風に、芝生の緑はそよぎ、博人のネクタイとみなものリボンがはためく。
そうして風は、彼方へと吹き抜けていった。
「あ、虹!」
その彼方を、みなもが指差した。
「見て見て! 虹だよ! 虹!」
みなもの指差す先。そこには七色の鮮やかな虹がアーチを描いていた。
「すごいなあ。久々に見たよ!」
みなもはまるで幼い子供のようにはしゃいでいた。
「さっきまで雨が降っていたからな。虹のひとつも出るだろうよ」
博人は特に感慨深くもならず、東の山の向こうに掛った虹を見つめる。
「別に珍しくもないだろう」
「むー。ロマンがないなあ」
みなもは怒ったように頬を膨らませる。
「ねえねえ、博人くん」
しかし、すぐにいつもの笑顔に戻った。
最初のコメントを投稿しよう!