イミテーション

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「いいぜ、今からか?」 陽が首を軽く縦に振る。 埃っぽい所は苦手だが、いずれ誰かがやらなければならない事だ。 「ほら、これ」 「……何?」 「埃っぽい所だから、何か着た方がいいかと思って」 そう言う陽から渡されたのはレインコート。 ……割烹着の代わり、みたいな? 「陽のは?」 「いや、一着しかねーし。手伝ってもらう悠の服汚すの嫌だし」 「じゃあいらない。俺は陽の服を汚す方が嫌だし、俺のは汚しても構わない服だから」 陽はでも、と反論したが、レインコートってなんかダサいしな。と付け加えると少し考えてじゃあ俺が着る、と言った。 「さー行こうぜ」 その細身には少々大きすぎる気もするレインコートを着た陽が嬉しそうに言う。まぁさしずめ、宝探し気分だろう。 物が一杯に詰め込まれているのも、掃除を延長してきた理由の一つなのだから。 「あぁ、そうだな」 短く答えて、俺はマスクがあれば良かったなと思いながら、半ば掃除を手伝うと言った事を後悔し始めていた。 *
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